ドミノミクス(Dominomics)

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IBM Watson Summit2017で実感したこと

2017.04.27~28に開催された、IBM Watson Summit2017に参加しました。昨年に続く2回目のWatson Summitは大盛況でコグニティブ・AI時代の到来を実感できる2日間でした。

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私のWatson Summit参加の目的は「Watsonの真価を探る」ことでした。そして真価の判断基準は、①実現性③実用性②発展性の3点としました。①実現性は、本当に可能かということです。とかくバズワードが多いAIのため、夢物語に騙されてはいけません。②実用性では、投資対効果の判断です。できたとしても、費用がかかりすぎたり、効果が少なくては意味がありません。③発展性は、せっかくのAI活用なので、更なるイノベーションへの期待も大きなポイントです。
何か、偉そうなことを書いていますが、私も少しだけWatsonを検証した経験がありますので、この経験を踏まえてWatsonの真価について、私なりにリサーチした結果を以下にレポートします。

■コグニティブキャンパスの実現に向けて(金沢工業大学事例)

金沢工業大学(以下"金工大"と記述)における、学生の”自己成長支援システム”の構築に関するセッションは、これまでの中で個人的に最も素晴らしいものでした。
最初に金工大についてですが、約7,000名の学生が在籍する理系複合大学で「日本一?宿題が多い大学」「ものすごくアクティブな大学(課外活動がとても盛ん)」であると強調していました。そして膨大な活動履歴は、金工大のポートフォリオシステムに蓄積しているとのことです。
金工大が抱える課題は、学生個々の状況理解と個別フィードバックの限界に直面していることです。個々の学生に最適な履修や課外活動などのアドバイスをすることで夢や目標の実現を目指しますが、教職員などのリソースには限界があり、十分な支援が困難となっています。そこで、2016年11月にコグニティブ・コンピューティングを活用した学生支援システムを構築することで、課題克服に乗り出しました。

学生支援システムとは

学生支援システムとは、金工大過去10年分の卒業生の定型データ + ポートフォリオ等の非構造データを、コグニティブ連携させ、学生の夢や目標を実現させるための具体的なアクションのアドバイスをするものです。簡単な例えで言えば、学生が英語力を向上したい希望に対して「○○活動の参加」「○○の履修」を勧めるといった感じです。ところが「リーダーシップを身に着けたい」や「学校の先生になりたい」といった希望になると、多面的な分析が必要で、アドバイスも簡単ではありません。そこで相談者の個人データと、膨大な先輩のデータを類似分析をし、理想に近い先輩の情報から、具体的なアクションを導き出します。この分析ではWEX FCや、SSSPIの技術を利用しています。さらに、アドバイスは教職員との面談だけでなく、Conversationと連携することで、自動応対も可能となります。システムは7月サービスインの予定で、もう実現間近なところまで来ています。

 金工大これまでの活動の振り返りと今後の展望

昨年11月にスタートしたプロジェクトは当初とても苦労し、実現性も疑問視された程でした。特にデータの扱いに苦労し、IBMの支援も含めかなり研究したそうです。やはり、ちょっとやそっとで何とかなる代物ではないとのことです。それでも約半年という短期間で実用レベルまで漕ぎ着けたことは、脱帽と同時にWatsonの実用性を強く認識できました。今後の展望は学生支援だけでなく、Cognitive Cityをプロジェクトテーマにし、データサイエンス領域で産学連携による教育研究の実践、都市づくりにまで広げるということです。
これまでのWatsonの事例は、コールセンターなど既にナレッジとして蓄積されたデータの活用が中心のように思います。金工大の事例は、学生の活動履歴などの非構造データの有効活用と、Cognitive Cityという夢構想の現実性が実感でき、感動を覚えた程でした。

■展示ブースを巡って感じたこと

展示ブースでは、Watson APIのNLC、Conversation、R&Rを活用したものが多く出店されていました。各社の違いはインターフェースの多様性です。裏で動くAPIは同じでも、人と接するインターフェースは、ロボットのpepper、デジタルサイネージ、センサー、インタラクティブホワイトボード(IWB)など様々です。ただし、これらは実現性はあるが実用性はあと一歩といった印象でした。事実、話を聞いてみると「サンプルの参考出品です」や「実験中です」といった回答もありました。また、興味深いものに「3ヶ月の期間限定でWatsonのPoCを行う」サービスがありました。これは明確な目的のもとWatsonを導入するのではなく、何ができるかを探る為にWatsonのPoCを行い、実効フェーズ前の検討をするものです。いずれにしてもWatson APIでは実用性に直結するパッケージがある訳ではありません。APIに限ったことではないですが、Watsonはツールに過ぎず、使い方は自分で考え、データも自分で対応することが前提ということです。やはり、自動的に最適解を導き出してくれる夢のシステムなど存在しないことを再認識した次第です。 

■Watsonは職業犬のようなもの

2日間のWatson Summitで実感したことは「Watsonは職業犬のようなもの」です。職業犬とは、警察犬や盲導犬、救助犬など様々な分野で活躍する犬達です。職業犬は基本的に人間のサポートを果たしますが、人間には不可能な高度な能力をも発揮します。
そんな素晴らしい職業犬ですが、勝手には育ってくれません。育成には膨大な訓練と費用が必要です。例えば1頭の盲導犬育成には、約1年の訓練期間と300万円もの費用がかかるそうです。何事も大きな効果を期待すれば、それなりの覚悟と費用が必要になります。

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冒頭、Watsonを検証した経験を踏まえて「真価を探る」などと偉そうなことを書きましたが、ちょっと齧ったくらいで真価を探るなどおこがましい気がしました。金工大では大学の運命だけでなく、地域の将来までかけた取り組みを行っています。
また、別セッションの保険会社のQAサポート事例では、強い意志と相当の投資を行って初めて効果が出るというのです。保険会社の方曰く、AIには必ず反対意見が出るそうです。それは「本当に使えるのか?」「既存システムの活用や改善で十分」といった意見です。事実システムをWatsonで開発した当初は、複雑なQAの対応を目指したこともあり、正率が悪くかなり苦労したそうです。それでも改良を続けることで正答率も60%~70%まで向上させ、今では新システムは欠かせない存在になっています。ちなみに旧システムの正答率は20%~30%に留まるということで、やはりWatsonが非常に高いポテンシャルを持っていることは間違い無いようです。しかし、これを有効活用するのは簡単ではなく、データサイエンスを含む高い技術と、やり抜く強い意思と投資が不可欠ということでした。

■現時点におけるWatsonの評価(独断)

Watsonというと、クラウドWatson APIが注目されることが多いですが、金工大と保険会社の事例では、オンプレのWatson Explorer(WEX)が使われています。また新サービスとしてWatson Workが年内リリース予定です。
最後に、これら①Watson API、②Watson Explorer、Watson Workについて、実現性実用性発展性の観点で独断と評価してみようと思います。

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 個人的に現時点の一押しはWatson Explorerです。これは、金工大や保険会社の事例にもあるように、これまでのシステムでは対応できない深い洞察を導くからです。ただし非常に高価ということで、より強い意志と投資が必要となります。願わくば、もっと安価なって欲しく、そうすれば爆発的に普及すると睨んでいます。

Watson APIは、ライトに始められるメリットがある反面、キラーアプリが存在せず決め手に欠ける感があります。とはいえクラウド対応で、急激に機能と性能が進歩を続ける優良株!全てはアイデア次第で、可能性は一番だと思います。

Watson Workは、日常業務を含む全てのワークのコグニティブ連携させ、働き方改革の実現を目指しています。Watson Workspaceでは、会話の内容を理解して要約や、実施すべき次の行動を示唆します。Watson Work Servicesは、IBM製品だけでなく他社製品もコグニティブ連携させることで、よりオープンで効率的な業務遂行の支援を行います。以上がWatson Workの概要抜粋ですが、いかんせんリリース前なので評価のしようがありません。これは全くの個人的な意見ですが、Watson Work構想の実現は少し時間がかかると思っています。 

以上、各サービスにおける現時点の実現性実用性は多少バラつきはあります。とは言え、発展性に関しては共通して期待できることは間違い無いです。引き続きWatsonから目が離せないですね。私も検証・リサーチを継続しますので、結果などを別途レポートしていきたいと思います。